ホーム > オーストラリアよもやま話> バックナンバー

シドニーのマイホーム事情

「マイホーム」というのは和製英語だが、「念願の」とか「夢の」などと修飾されて使われるせいか、「長年の苦労の結晶」といった印象を受けるのは私だけだろうか? オーストラリアでは家を買うのはごく普通のことで、若い頃から持ち家を手に入れる。その代わり、と言ってはなんだが、彼らは決して貯金にはげむことはない。新聞の記事によると、貯金額が1万ドル(日本円にして約80万円)未満の人が40歳から55歳でも47パーセントという。 

ここでは一生に7回家を替わると言われる。平均では約6年に一度引っ越しをしているという最近の調査もあるので、実際にはもっと頻繁に家を移っていることになる。結婚するか子どもができてから初めての家を買い、生活スタイルや同居家族の増減に合わせて何度も家を買い替えるのが一般的なようだ。そして住んでいる間にコツコツと手を加え改良して、買った値よりも高く売ることもポイントらしい。

「オーストラリアン・ハズバンド」という言葉がある。お世辞にも手先が器用とは言えないにもかかわらず、彼らは家に関するたいていのことは何でも自分でやる。ペンキを塗り替えることから始まって、床を板張りにしたり、垣根をこしらえたりするだけでなく、時間をかけて一から家を建ててしまう人だって本当にいる。

住宅改善に関するテレビ番組は高視聴率だし、書店に行けばその種の本がたくさん並んでいる。お蔭で、大型の日曜大工店はいつも大賑わい。みんな子どものような表情で、しかし、とても真剣に必要なものを選んでいたりして何とも微笑ましい。

地域や建物によってはブラインドの色が指定されたり、屋根や外壁の色が統一されているせいか、高台から眺めると、緑の多さにも目を見張る。何より落ち着いたレンガ色の屋根や壁の色が印象的で、素人が手を入れているとはとても思えない。

私は賃貸ユニット(日本でいうマンションの一種)に住んでいる。ここNSW州では、賃貸契約時の手数料は書類作成費用だけで上限15ドル(日本円で約1,200円)と決められている。保証金は政府の機関に預けるが基本的に退去時に全額返金となる。不動産屋は賃貸事務を代行することによって手数料を家主から受け取る仕組みになっていて、家賃は2週間か4週間ごとに不動産屋に支払い、修理が必要な時もまず不動産屋に連絡する。そうすると家主の意向を確認してから業者を手配してくれるのだが、何事ものんびり、おっとりのオーストラリアではこれが大ごととなる。

最近、ブラインドを新しく取り替えてもらったのだが、修理を頼んでから何と6か月もかかった。契約した当時の不動産屋の担当者はとても仕事の速い感じのいい人だったので、みんなからうらやましがられたが、残念ながら1年ほどたった頃に家主が今の不動産屋に委託先を変えてしまったのだ。1つ上の階に住む住人は住居自体には何の不満もないのだが、ある時「ここの不動産屋がひどいから出て行く!」とひどく憤慨していた。

シドニーで心安らかに暮らすにはいい不動産屋に出会うことがとても大切である。
 

(月刊「清流」掲載)
 
●ひとつ前の話
ひとつ後の話