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マルチカルチャリズム(多文化主義)はおいしい

シドニーには、おいしいものがいっぱいある……と、言うと、驚く人も多い。

「イギリスの植民地だったところで、そんなはずがない。」

などと、言う人もいる。

1960年代に「白豪主義」が撤廃されてから、オーストラリアは多民族国家へと変貌を遂げた。10年前と比べても、街中を歩いているアジア人の数がとても多くなったなあ、と思う。実際、シドニーに住む人の、約3人に1人は外国生まれだ。

ベトナム戦争や天安門事件など、世界のどこかで何かが起こった時には、難民の受け入れにも素早い対応をしている。その点、日本とはとても対照的だ。コソボなんて、地球のほぼ裏側に当たるにも関わらず、いち早く難民の受け入れをはじめたのはオーストラリアだった。

入ってきたのは人だけではない。世界各国からの移民、難民が持ち込んだそれぞれの食文化が一般の家庭にも浸透し始めている。

何でも、オーストラリア家庭の約78パーセントは醤油を常備しているという。街で器用に箸を使っている人の数の多さにも驚く。

もちろん、移民社会が成熟していないための軋轢や、問題は多々ある。だが、こと食文化に関しては、おかげで順調に発展し続けており、レストランのレベルは急上昇している。いながらにして、各国の本格的な料理が楽しめるのはとてもありがたい。

広大な国土ゆえに気候も多様なため、もともと食材は豊富なうえ、手に入らないものは、各国から輸入されている。それに加え、移民の数が増えるにしたがって、オーストラリアで作られるようになったものの例も枚挙にいとまがない。日本人の数は全体からすると微々たるものだが、それでも日本の米や日本酒が作られている。

オージービーフのイメージが強いためか、肉ばかり食べているのだろうと言われることも多いが、実はシドニーの魚市場は世界で2番目に取引量が多い。と言うことは、築地の次だ。よって、魚だってとってもおいしい! この魚市場では早朝のセリの後、一般客向けの販売をしていて、各店には刺身コーナーも設けられている。

中国人やイタリア人は、祖国の味を頑固なまでに貫いている。その国の言葉を話し、文化を理解するスタッフのいるレストランの味はまさに本国のものだ。

そうかと思えば、オーストラリア料理やフランス料理は、アジアや中近東のテイストを取り入れて、世界のどこにもない新しい味を創り出したりしている。

というわけで、シドニーまでやってきた知り合いは、

「オーストラリアで、こんなにおいしいものがいっぱい食べられるとは思ってもみなかった」

と、口を揃える。

オーストラリアらしい食事と言えば、でっかいステーキやロブスター、または、ワニの肉なんかを思い浮かべる人がまだまだ多いが、スペイン料理もベトナム料理もみんなひっくるめて、マルチカルチャリズム(多文化主義)を誇る、今のオーストラリアなのだよ、と言いたい。
 

(月刊「清流」掲載)
 
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