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スキッピー症候群とカンガルー肉の愛称
【2006年8月29日】

昨年、愛・地球博オーストラリア館のファスト・フード・メニューに登場して、話題を呼んだカンガルーバーガーは、会期後半の2ヵ月弱の間に3万個も売れたそうです。

「カンガルーって食べられるの?」と疑問に思うかもしれませんが、カンガルーは絶滅に瀕している種がある反面、繁殖しすぎた種による農作物の被害も少なくないため、免許を持ったハンターによって毎年数百万頭が捕獲されており、皮革素材のほか、ペットフードや食肉用としても流通しているのです。

食用としてはその約70%が輸出用。低脂肪、低コレステロールで、アレルギーも出にくいヘルシーな赤身肉は、良質なタンパク源として、生活習慣病などの療養食としても注目を集めており、特にドイツやロシア、フランス、ベルギー、スイスなどで需要が高いようです。脂肪が少ないため、調理の際は焼きすぎないことがコツ。ミディアムレアでサーブすれば柔らかいままいただけます。

本場(?)オーストラリアでもカンガルーミートは普通のスーパーマーケットで簡単に手に入りますが、ビーフやポーク、ラムのように日常的に食卓に並ぶ食材とはちょっと違います。国の紋章にも使われているいわば「象徴」であるオーストラリアの代表的な動物を料理したり、食べたりするのはねえ……とためらう傾向は、昔の人気テレビ番組の主役カンガルーの名前にちなんで「スキッピー症候群」と呼ばれたりもします。

それを打開すべく、フード・コンパニオン誌がカンガルーミートの愛称募集イヴェントを行ったのが昨年暮れのこと。41ヵ国2,700人の応募作品の中から、大賞に選ばれたのは、国名の由来“Terra Australis”(ラテン語で「南の大地」の意味)をひねった“Australus”(「オーストラルス」ともいわれますが、「オーストレイラス」が本来の発音に近い表記のよう)。やたら単語を縮めて発音したがるオージーが使う愛称にしては長ったらしすぎるし、「話のタネに」とカンガルーバーガーを抵抗なく食べられる日本人の間で分かりにくい新名称が浸透するかどうか、これまたとっても怪しい……。

「パンパカパーン」と発表されたものの、今のところスーパーマーケットの商品表示やレストランのメニューも、「カンガルー」のまま。英語では、鹿肉を「ヴェニソン」と呼ぶことで、小鹿のバンビのイメージを払拭した実績があるというけれど、果たして“Australus”がカンガルーの肉と認識される日はやってくる?

(「地球の歩き方」オーストラリア・シドニー特派員ブログ掲載)
 
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