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オーストラリアの選挙制度〜「イッツ・タイム症候群」のせいで首相も落選?〜
【2007年11月26日】

週末に、オーストラリア全土で連邦総選挙が行われました。18歳以上の国民に有権者登録と投票が義務付けられれているこの国では、正当な理由なく投票しなければ罰金が科せられることもあって、95%前後の投票率が維持されています。


投票会場となった教会前のようす

ただし、選挙会場に足を運んで投票する人は全体の約84%。高投票率を支えているのは、どんな状況でも投票できる仕組みです。当日選挙区にいない人が同州内で投票できる不在者投票(Absent voting)や、それ以外の国内地域で投票できる州外投票(Interstate vote)のほか、郵便投票(Postal voting)や事前投票(Early voting)、病院投票 (Hospital voting)、在外投票(Overseas voting)は当たり前!

「へえ〜」と思うのは、移動投票(Mobile polling votes)のひとつである刑務所投票(Prison and remand centre voting)。オーストラリアでは刑期が5年以内であれば、服役中も選挙権があるため、刑務所でも投票OKなのです。広大な国土をカバーするために、係員が車や船、時には航空機やヘリコプターまで使って票を回収しに出かける遠隔地投票(Remote division voting)も整備されています。

オーストラリアの選挙制度は、いつも世界を一歩リードする動きを見せてきました。たとえば、1858年にはタスマニアで、世界初の秘密投票方式(無記名投票)が導入され、以後「オーストラリア式投票」として知られるようになりました。また、身分や財産、納税額などに関わらず平等に選挙権が付与される男子普通選挙が南オーストラリアで最初に実施されたのは1856年のこと。これは、1901年に連邦が発足して正式に国がスタートする45年も前の出来事で、アメリカやイギリス、ドイツなどより早く、さらに、女性の参政権はニュージーランドに次いで世界で2番目に早い1902年に認められています。ちなみに、日本で普通選挙法が公布されたのは1925年、女性参政権の獲得は1945年です。

即日開票された今回の総選挙では、最大野党の労働党が11年半ぶりに政権を奪回しただけでなく、地滑り的に大勝。ABCによると開票率約80%の本日午後時点で、下院150議席中87議席を獲得する見通しになっています。世論調査の支持率は、昨年暮れにケビン・ラッド新党首が就任して以来ずっと野党優位で推移してきましたが、ここまで差がつくことになるとは、いやはや……。経済はすこぶる順調で、これといった失政もなかったのに、恐るべし、オージーの「イッツ・タイム症候群」(←「もうそろそろでしょ」と変化を望む傾向のこと)! 

さらに、びっくりなのは、4期連続11年7ヵ月という歴代2位の長期政権を担ってきたジョン・ハワード連邦首相自身が議席を失ったことです。8割方開票された時点で、51.7%の得票率を得て、つい先ほど勝利宣言を行った労働党のマクシーン・マキュー氏は、元ジャーナリストの54歳の女性です。最終的な数字は郵便投票や事前投票の開票を待つことになりますが、現役首相の落選は1929年以来史上2人目になるのだそう。

土曜日の夜遅くに行われたハワード氏による自由党の敗北宣言はとっても潔いと同時に品格があり、感情を押さえながらの「さよならスピーチ」を壇上で見守る家族の姿にちょっぴり胸をうたれました。

まあ、それはともかく、新政権の誕生です。26代目首相となったラッド氏は、外交官出身で50歳になったばかり。通訳なしで中国語もこなします。労働党の首相は11人目ですが、連邦政府とすべての州政府において労働党が与党となるのは、オーストラリア史上初。ジュリア・ギラード副党首が、これまた初の女性副首相に就任となります。政府にフレッシュさを求めた国民の声に応える舵取りを大いに期待したいところです。

(「地球の歩き方」オーストラリア・シドニー特派員ブログ掲載)
 
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