■伝説の英雄ネッド・ケリーを描いた巨匠シドニー・ノーランの回顧展
【2007年11月23日】
シドニーの街中の道路沿いには、さまざまなバナー(のぼり旗)がとっかえひっかえ掲げられますが、今そこら中で、はためているのは、↓コレ。
たとえ誰の作品か知らなくたって、描かれているのが伝説のブッシュ・レンジャー(辺境のギャング)といわれるネッド・ケリーであることは、オーストラリア通の人ならすぐに分かるはず。19世紀後半に、窃盗や銀行強盗などの犯罪を重ねた挙句、警官を殺して絞首刑になったネッド・ケリーは単なるギャングではなく、貧しい庶民に味方する義賊として名を馳せ、オージーのメンタリティーの根っこにある反権威主義やマイトシップを象徴する勇敢な英雄として神話化されています。
当時の新聞によると、ネッド・ケリーの最期の言葉は、「人生なんて、こんなもんさ(Such is life)」だったそう。20代半ばで逝った伝説のアウトローは、小説やドラマなどでも繰り返し取り上げられています。映画では、1906年に公開された世界初の長編映画といわれる『The Story of the Kelly Gang(ザ・ストーリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング)』が最初で、最近のものでは、ヒース・レジャーが主演し、オーランド・ブルームとジェフリー・ラッシュが脇をかためた『Ned Kelly(ケリー・ザ・ギャング)』が話題を呼びました。
で、話を戻すと、街角のネッド・ケリーのバナーは、ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館で開催されている特別展「シドニー・ノーラン展」のプロモーションとして展開されているもの。シドニー・ノーランは、アルバート・タッカーやアーサー・ボイドらと共に前衛美術の先駆者として活躍し、20世紀のオーストラリア芸術界を代表する画家として国際的な名声を確立した後、1992年に亡くなりました。
オーストラリアの歴史や風景、伝説の人物などを題材にした印象的な作品を数多く残していますが、中でも特に有名なのが、1947年から48年にかけて描かれたこのネッド・ケリー・シリーズ。トレードマークになっている鉄の兜と鎧に身を包んだ顔の見えないネッド・ケリーの背景には、真っ青な空や広大なアウトバックが広がっています。オーストラリアの原風景を象徴するような色使いや光と空間の広がり、さらにそこに漂う孤独感からは、この国で生まれ育った画家でなくては表現しえないオリジナリティが感じられます。
今回の回顧展で展示されるのは、滅多に公開されたことのないプライベート・コレクションを交えた135点の作品。一つのスタイルにこだわることなく、生涯を通して、実験的なテクニックや手法を駆使したといわれるノーランの芸術家としての変遷が鑑賞できるまたとない機会です。毎週水曜日は夜9時までオープンしていて、特別レクチャーやフィルム上映などのイヴェントも企画されているため、日中ではなく夕方から夜にかけて訪れるのもいいかもしれませんね。
▼Sidney Nolan A New Retrospective
期間: 2007年11月2日〜2008年2月3日
場所: ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館(Art Gallery Road, The Domain Sydney)
開館時間: 毎日10:00〜17:00(水曜は〜21:00)
入場料: A$12
(「地球の歩き方」オーストラリア・シドニー特派員ブログ掲載)
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